定家様が伝えた文化 展
筆の名産地、広島県安芸郡熊野町の文化施設「筆の里工房」では年にいくつかの企画展が開催されます。 小さな町の施設なのに時々驚くような企画展が開催され、この秋は藤原定家をテーマにした企画展で、定家の子孫の冷泉家から4件の国宝が出展されます。
展覧会のタイトルになっている「定家様」ですが、「さだいえさま」ではなく「ていかよう」と読みます。 新古今和歌集や新勅撰和歌集の選者で歌人としても名高い公家の藤原定家は、文字にクセがあって上手とは言い難いですがファンが多く、そのスタイルが定家様と呼ばれるようになりました。 テイカと読むのは、歌人などに使われる「有職読み」という読み方で、藤原行成のコウゼイとか安倍晴明のセイメイも有職読みです。 参考に一番最近国宝に指定された三の丸尚蔵館所蔵の国宝『更級日記』の写真を載せておきますね。
これを書いている時点ではリストが公開されていないのですが、チラシやWEBサイトを見る限りでは、定家の直筆の和歌集や日記、後世の人たちが定家様で書いた作品が並ぶようです。 前半に国宝が集中しているのは、9/22に「筆まつり」があるからでしょうか? 9/29までに行くと3件の国宝を観ることができます。
この展覧会で観られる国宝
明月記(自筆本)[冷泉家時雨亭文庫]
藤原定家は50年を超える期間にわたって日記を書いていて、その直筆の日記の一部が冷泉家に伝わりました。 日記なので、和歌集なんかよりも更にラフな印象を受けます。 日記の内容は、宮廷の政治や有職故実だけでなく、公家の暮らしや天変地異についても書かれていて、社会的資料としても評価が高いのだそうです。
後撰和歌集(藤原定家筆)[冷泉家時雨亭文庫]
後撰和歌集は、醍醐天皇の皇子で2代後に即位した村上天皇の命で作られた勅撰和歌集で、清少納言のお父さんの清原元輔らが編纂した和歌集です。 後撰和歌集の成立から300年ほど後の天福2年(1234年)、定家が73歳の時に書写したもので「天福本」と呼ばれています。 こちらは和歌だけでなく、定家による和歌研究が書き込まれているそうです。
拾遺愚草[冷泉家時雨亭文庫]
今回、定家筆の国宝和歌集は3件公開されますが、こちらだけは定家自身が詠んだ和歌を自身で編纂した自選集で、上中下の3帖が現存している内の下冊が前期に公開されます。 名前の拾遺愚草(しゅういぐそう)ですが、拾遺というは定家の官職だった侍従を唐風に呼んだ名前で、愚草は自身の原稿を謙遜しています。
古今和歌集(藤原定家筆)[冷泉家時雨亭文庫]
平安時代初期に醍醐天皇の勅命で編纂された和歌集「古今和歌集」を定家が65歳の時に書写したもので、定家の子から孫へと代々冷泉家に伝えられたものです。 定家は生涯でかなりの数の古今和歌集を書写したようですが、こちらは奥書に嘉禄2年とあるので「嘉禄本」と呼ばれて、現在広く読まれている版の1つだそうです。
筆の里工房のこと
広島市の中心部から南東に10kmほどの距離にある安芸郡熊野町は、筆の生産量が日本一という筆の町で、名産の「熊野筆」は書画だけでなくメイクブラシなども人気があります。 筆の里工房は筆の魅力を広めるための市の施設で、筆を紹介する展示や教室、ショップやカフェもあるので、遠方から足を延ばしても楽しめると思います。 公共交通機関を使う場合はちょっと不便で、広島バスセンターから45分ほどバスに乗り、最寄りの出来庭バス停からは20分ほど歩きます。 9/22(日)の筆まつりの日は、広電バスの熊野営業所から筆の里工房まで無料シャトルバスが1時間に2本ほど運行されるようなので、公共交通の方はこの日を狙うといいかもしれません。
展覧会 概要
日程:2024/9/14~11/4
休館:毎月曜日(祝日の場合は開館し、翌火曜が休館)
時間:9:30~17:00(入館は30分前まで)
料金:大人¥800、小中高生¥250、未就学児は無料
筆の里工房 公式サイト