正倉とは
奈良~平安時代の官庁や大規模な社寺には、租庸調などで徴収した品や重要な文物を保管する「正倉」が作られ、その正倉が集まったエリアが「正倉院」と呼ばれた。 現存しているのは、東大寺の正倉だった国宝『正倉院 正倉』1棟のみで、現在では正倉院といえばこの建造物を指すようになっている。
国宝『正倉院 正倉』
聖武天皇の崩御後に、光明皇后が冥福を祈って聖武天皇遺愛の品々を東大寺の盧舎那仏に奉献し、その宝物が正倉院正倉で保管された。 そこに東大寺に伝わる宝物も加わり、1963年に鉄筋コンクリートの西宝庫に移されるまで、正倉院宝物が保管された。
間口33m、高さ14m、奥行9.4m、床下2.7mとかなり大型で、高床式で造られている。 北倉・中倉・南倉の3ブロックで南北に長く、両端の北倉・南倉は校倉造り、真ん中の中倉部分は板壁になっている。 これは、南北の倉を中倉でつなげたとする説や、最初からこの形式で建てられたなど、意見がわかれている。 寄棟造りの屋根で一層(1階建て)に見えるが、内部は3倉とも二層(2階建て)になっている。
かなり古い時代から「勅封蔵」として、天皇の勅書を巻き込んで封をしており、現在でも西宝庫では、勅使によって天皇の親書を麻縄で撒き込んで封がされている。 東大寺宝物は権威の象徴でもあり、足利義満・織田信長・明治天皇らは、宝物の香木「蘭奢待(らんじゃたい)」を切り取っている。
国宝指定について
皇室に伝来した文物は「御物(ぎょぶつ、ごもつ)」と呼ばれ、戦後以降に国有化された物も、国宝には指定されていない。 正倉院宝物は、古い時代の優秀な品が数多くあり「国宝級」だが、全て宮内庁の管理で国宝には指定されない。
正倉院正倉も宮内庁の管理下にあり、国宝には指定されていなかった。 奈良公園~西ノ京エリアの社寺が「古都奈良の文化財」としてユネスコの世界遺産登録を申請した際に、文化財保護法等で保護されていることが登録の条件であったため、1997年に建物のみが国宝に指定された。
この国宝を観るには
平日の10:00~15:00まで、無料で公開されているが、あまり近くまでは行けず、数十メートルの地点から眺めることになる。 奈良国立博物館で毎年秋に行われる「正倉院展」の期間中は、土日祝も含め10:00~16:00まで公開される。
見学休止日:土・日・祝、年末年始、行事のある日
文化財指定データ
【台帳・管理ID】102-5272
出典:国指定文化財等データベース一部抜
【指定番号】00219
【種別】近世以前/寺院
【指定名称】正倉院正倉
【ふりがな】しょうそういんしょうそう
【員数】1棟
【時代・年】天平勝宝8年頃(756年頃)
【構造・形式】桁行九間、梁間三間、一重、高床校倉、寄棟造、本瓦葺
【所在地】奈良県奈良市雑司町
【所有者】国(宮内庁)
【国宝指定日】1997.05.19
鑑賞ログ
2019年6月
宮内庁の管轄なので、平日のみの公開。しかも15時までということで、意外と行けずにいました。 奈良公園の北西の端近く、転害門の真東ですが、入口は南側のみなので、転害門からだと南にぐるりと回らないといけません。 大仏殿から戒壇院に行く途中を北に歩いたあたりです。
それほど人もおらずひっそりとしていますが、テントのお土産物店が出ています。 皇居などと同じ、皇室カレンダーなんかが売られています。 正倉院はかなり遠くからの見学ですが、もちろん修理などしているにせよ、これが奈良時代から建っていて、あの宝物を守ってきたかと思うと感無量です。
遠くから眺めるだけなので、見学時間は10分もかかりませんが、脇には掲示板が立てられて、正倉院の説明案内がありました。 修学旅行生なんかも来ていたので、特にわかりやすく書いてあるんでしょうか。 こういった案内があると、事前に勉強しなくても見どころがつかめて、ありがたいです。
2019年10月 東博「正倉院展」
今年は御即位記念で、東博でも正倉院展が開かれます。 正倉院宝物の他にも、現在は東博が所蔵している法隆寺献物などと比較して展示されたり、復元された作品が展示されたり、東博らしい構成になっていました。
特に面白かったのが影像で、螺鈿紫檀五絃琵琶の再現の様子がドキュメントになっていたり、現在でも続く勅封蔵の開封の様子が流されています。 全て数分程度のものですが、これは絶対に全部見た方がいいです。 勅封蔵を開ける様子なんて、見られる機会が絶対に無さそうですから。
他にも、正倉院の大きさを体感するための実物大の正倉や、勅封がされる鉤部分などが再現されたコーナーは、写真撮影もOKなので、奈良での正倉院展とはまた違った楽しさだと思います。