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国宝-彫刻|叡尊坐像・像内納入品[西大寺/奈良]

国宝DB-彫刻

興正菩薩 叡尊のこと

叡尊(えいそん、えいぞん)は鎌倉時代の僧で、真言密教を学んだ後に、当時は廃れていた戒律の復興を志し、西大寺を拠点として再興した。 貧民や病人の救済につとめ、皇族から乞食まで貴賤問わずに数多くの人に戒を授け、鎌倉幕府の執権だった北条時頼に招かれて鎌倉にも下り、北条一族や御家人たちに受戒をしている。 元寇では国家のために敵国調伏の祈祷を行い、晩年には勢力争いの外にあったため四天王寺の別当に任ぜられ、その後も宇治橋を再興するなど多くの事業に携わり、死後に興正菩薩の諡号が贈られた。

西大寺愛染堂前の叡尊手植えの菩提樹(6月上旬)

国宝『叡尊坐像』

弘安3年(1280年)に、叡尊の80歳を賀して弟子たちが作った像で、内部には数多くの納入品が納められた。 鎌倉時代の肖像彫刻の傑作で、皺や血管など細かい部分まで写実的に表現している。 制作は、南都仏師で叡尊にゆかりのある「善春(ぜんしゅん)」による。

国宝『像内納入品』の一覧

金銅八角五輪塔 1基
紙本墨書舎利安置状(文永七年三月六日 西仏奥書)1通
紙本墨書両界種子曼荼羅 1巻
紙本墨書梵網経(建治二年十月十九日及び弘安元年十二月二十二日澄慧奥書)1帖
版本大仏頂陀羅尼啓請法(弘安二年二月八日惣持刊書)1巻
紙本墨書五種陀羅尼真言等(弘安三年九月六日惣持奥書)
紙本朱書法華経 開結共(弘安二年十一、十二月元〓等奥書)10巻
紙本朱書般若心経(弘安二年十一月観海奥書)1巻
紙本墨書観海願文(弘安三年九月十二日奥書)1通
木箱、包紙等 一括
紙本墨書般若理趣経(弘安二年九月奥書)1巻
紙本墨書般若心経(弘安三年□(四)月五日性忍奥書)1巻
紙本墨書悲華経 巻第六・七(弘安三年九月生恵等奥書)1巻
版本金光明最勝王経(弘安三年九月十日鏡慧奥書)10巻
版本四分戒本 1巻
版本梵字経 6冊
紙本墨書供養法日数 1巻
紙本墨書自誓受戒記等 1巻
紙本墨書西大寺有恩過去帳(弘安三年九月十日鏡恵奥書)1巻
紙本墨書授菩薩戒弟子交名(弘安三年九月十日鏡恵奥書)3巻
父母遺骨 1包
紙本墨書願文(文永三年九月、弘安三年八月及び尼尊□)3通
紙本墨書祈願文(宝治元年六月、建治二年五月、弘安三年八月、九月等)15通
紙本墨書寛誓祈願文(文永十二年暮春十二日発願)1巻
紙本墨書同心祈誓文 1通
紙本墨書願文等残片 一括

国宝『像内納入品』の附指定

仏舎利(宝暦十二年高随奉納)1包
 真鍮製舎利容器 1合
 紙本墨書宝暦十二年晁堯、堯慧願文 1通
紙本墨書金光明最勝王経 御点本(延元元年順乗所持奥書)10帖
版本仁王般若経(永徳元年刊記)2帖
紙本墨書仁王般若経 下(至徳四年奥書)1帖
版本法華経(永正十六年刊記)8巻
紙本墨書孟蘭盆経(天正十九年奥書)1巻
紙本墨書宝楼閣経(元和二年奥書)1巻
版本孟蘭盆経(明暦二年刊記)1帖
版本孟蘭盆経(明暦二年刊記)1巻
版本地蔵菩薩本願経(万治三年刊記)2帖
版本遺教修多羅(貞享四年刊記)1帖
版本四分戒本(元禄元年刊記)1帖
紙本墨書金光明最勝王経 寿重品(宝暦十二年奥書)12紙
 紙本墨書七仏略式(宝暦十二年奥書)1帖
 紙本墨書律苑僧宝興正伝(宝暦十二年奥書)1冊
紙本墨書宝篋印陀羅尼、七仏略戒等(各宝暦十二年奥書)一括
 版本大仏頂、大随求陀羅尼 1帖
 紙本墨書宝篋印陀羅尼(宝暦十二年奥書)1紙
版本大随求陀羅尼(宝暦十二年奥書)1帖
紙本墨書般若心経及阿弥陀経 1巻
版本般若理趣経 1巻
版本仁王般若経 2帖
版本阿弥陀経 1帖
版本阿弥陀経(両点清濁)1帖
版本及墨書釈門帰敬儀 2帖
版本法華経 1帖
金襴八角五輪塔仕服 1枚

この国宝を観るには

叡尊坐像は、西大寺でかつて叡尊が居住していた西室跡地に建つ「愛染堂」に安置されている。

西大寺 愛染堂

寺外での公開

2023/4/15~6/11 東北歴史博物館「悠久の絆 奈良・東北のみほとけ展」叡尊像は5/30~6/11、納入品は通期
2021/3/27~5/16 京都国立博物館「鑑真和上と戒律のあゆみ」叡尊像・像内納入品
2019/2/19~3/19 奈良国立博物館「珠玉の仏教美術」像内納入品
2016/7/23~9/19 奈良国立博物館「忍性―救済に捧げた生涯― 」叡尊像・像内納入品

文化財指定データ

【台帳・管理ID】201-4166
【指定番号】0132-01
【種別】彫刻
【指定名称】木造叡尊坐像〈善春作/〉
【ふりがな】もくぞうえいそんざぞう
【員数】1躯
【時代・年】1280年
【作者】善春
【ト書】像内に弘安三年八月二十六日、大仏師法橋善春等の造立銘及経論要文の記がある
【所有者】西大寺
【国宝指定日】2016.08.17

【台帳・管理ID】201-4167
【指定番号】0132-02
【種別】彫刻
【指定名称】像内納入品
【ふりがな】ぞうないのうにゅうひん
【時代・年】1247~1266~1270~1275年
【所有者】西大寺
【国宝指定日】2016.08.17

出典:国指定文化財等データベース一部抜粋

鑑賞ログ

2019年6月

昔は東大寺と双璧だったという西大寺ですが、今は近鉄のターミナル駅名として有名で、お寺はメインの観光名所からはちょっと外れているでしょうか。 それでも歴史ある寺院で見どころも多いですし、西大寺駅から徒歩5分ほどなので、観光プランの合間に取り入れやすいお寺です。

西大寺

「愛染堂」は西大寺の一番奥にあって、セット券を買っていなければ、入らずに帰ってしまうかもしれませんが、こちらに西大寺で唯一の国宝仏像(高僧像)があります。 

名前の通り、このお堂の本尊は「愛染明王」で、重要文化財に指定されています。 この愛染明王は中秘仏で、1/15~2/4、10/25~11/15に公開されるほか、この時のように特別公開もあるようです。 この愛染明王は30cmほどで小ぶりなのですが、見事な厨子に入っていて、厨子の両扉には天照大神の化身の「雨宝童子」と、春日明神の化身「赤童子」が描かれています。 ぜひご開帳の時に行かれることをおすすめします。

西大寺 愛染堂

なぜ叡尊像が愛染堂に安置されているのかと思ったら、この愛染明王は叡尊の念持仏なんですね。 元寇の時に、叡尊が愛染尊勝法の祈祷をすると、この愛染明王の矢が飛んだという伝説の残る像なんです。

愛染明王の安置されている中央の間の向かって左手に、西大寺の歴代住職の位牌を安置する「御霊屋」があります。 その位牌の中央に叡尊像が安置されていて、ちょっと距離はありますが、畳に座ってじっくり対面できます。 

叡尊が存命中の80歳の時に作られたもので、叡尊によく使われていた「善春」の作なので、きっとそっくりなんだと思います。 痩せていますが穏やかそうで、いい感じに枯れた素敵なおじいちゃま、といった雰囲気です。 この善春は、愛染明王を作った善円の息子だそうなので、きっと善春は子供の頃から叡尊に可愛がられていたのではないかななど、愛あふれるストーリーを想像してしまいます。

関西地方を旅していると、般若寺の『楼門』や、長弓寺の『本堂』のように、叡尊によって再興されたお寺の遺構に出会うことが多いので、一度こちらで叡尊像に対面しておくと良いですよ。

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