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鑑賞ログ|河鍋暁斎 その手に描けぬものなし@サントリー美術館

国宝じゃないけど

河鍋暁斎 その手に描けぬものなし

サントリー美術館で河鍋暁斎だけを特集した展覧会です。 2015年に三菱一号館美術館で、暁斎と弟子(そして支援者)ジョサイア・コンドルをテーマにした企画展が記憶に新しいですが、今回は暁斎の画風に焦点をあてて、絵画の系統ごとに展示されています。

河鍋暁斎 その手に描けぬものなし@サントリー美術館 チラシ

第一章 暁斎、ここにあり!

サントリー美術館は、入口の第一章に企画展のイメージ的な展示をすることが多いですが、第一章の手前にはエピローグとして暁斎の代表作がプロジェクションマッピングで動くようになっています。 思わず見入ってしまう。

前期は「枯木寒鴉図」、後期は「山姥図」や「般若十六善神図」など、幅広い画風の暁斎を象徴するような展示で迎え入れてくれます。

第二章 狩野派絵師として

画風が幅広くて驚かされる暁斎ですが、修行は狩野派が一番長いようです。 10歳から19歳まで修行し「洞郁陳之(とういくのりゆき)」という画号も受けています。 

いかにも狩野派な画題「虎図」や、中国の故事による「司馬温公甕割図」なんかも、愛嬌にあふれています。 虎はちょっと芦雪の虎に似てるでしょうか。 正統派な画でとても上手いのですが、それだけではなく何とも言えない惹きつけられるものがあります。 小鬼がカワイイ「鬼の碁打ち図」なんかは、岩や水が見事に描かれていて、さすがの狩野派絵師っぷりです。

「風神雷神」は、前期後期で別のものになり、前期のものはちょっとワイルドめに描かれており、後期のものは顔が烏天狗のように描かれています。 同じく前期後期で展示替えがある「日課観音図」ですが、暁斎は毎日観音図を描いていたようです。 元は浅草寺のお前立ちで、狩野家から流出したものを暁斎が買い戻したという聖観音立像がありましたが、浅草寺の裏観音に似ている気がしました。

第三章 古画に学ぶ

研究熱心だった暁斎は、狩野派だけでなく古くからの画家の作品を集めたり書写したり、自分風に描いたりしていたようです。

端正に写されたものもあれば、デフォルメされていたり、ちょっとおふざけ的なものも混ざってクスッとしまっす。 あの有名な「鳥獣戯画」は、コミカルな画を写実的に描いていて、逆に本物らしい生き物がコミカルな動きをする可笑しさ。 「蛙の蛇退治」もリアルな蛙と蛇がガリバー旅行記のようです。

まさか観られると思っていなかった「放屁合戦絵巻」は、サントリー美術館が所蔵する古いものと、暁斎が倣って描いたものが並べて展示してあります。 これはもう甲乙つけられません。 バカバカしいのですが、おおどかでおかしみがあって、古くからこれを愛していた日本文化って素敵ですよね。

このコーナーは暁斎以外の画家のものもあり、あの狩野探幽が鳥獣戯画を写した巻が展示されています。 それはさすがで、本家に劣らない生き生きした動きと表情です。 暁斎の鳥獣戯画もありますが、画風を変えていたり、風刺の要素が入っていたりと、ちょっと捻ったものが多いようです。

河鍋暁斎画の鳥獣戯画 蛙の車屋さん

第四章 戯れを描く、戯れに描く

この辺が、みんなが一番イメージする暁斎ではないでしょうか? 前章までで「ちゃんと正統派な画も描くんですよ~」を見せておいて、満を持しての独特の世界観です。

「鷹に追われる風神図」なんて、強そうな鷹に狙われて掛軸を一直線に下る風神のかわいらしいこと。 これには元ネタと思われる画もあって、狩野派の「滑稽図巻」では風神が鷹につかまっちゃってます。 狩野派もこんなかわいらしいのを描くんですね。

3階に降りてすぐは「朝比奈三郎絵巻」ですが、歌舞伎の「対面」ものに出てくるあの朝比奈です。 特徴的なヒゲや髷の飾りの「力紙」を着けた朝比奈が、鬼の国や烏天狗の国で楽しそうにしているところ。 小鬼をおんぶする母鬼のにこやかな顔や、烏天狗の背中に乗って飛ぶ朝比奈の満足そうな表情など、細かいところまでじっくり観ちゃいますね。

「貧乏神図」は結界に閉じ込められた貧乏神を描いた軸ですが、表層が色んな裂地をツギハギにして、軸棒は左右で黒赤に色を変えてと、徹底的に「貧乏」を演出しています。 「大仏と助六」は酒席で描かれたものらしいですが、あふれるように描かれた大仏様の鼻の下に、傘を持った助六が花道のような見得をしています。 歌舞伎の花道と、大仏様の「鼻」に通じる「道」をかけたシャレです。 こちらの表装は、濃紫に色っぽい枝垂桜を手書きしたもの。 江戸っ子の粋ですね。

後半には錦絵も出ていますが、蒙古船の退治などは明治の富国強兵政策に沿ったものでしょうか。 錦絵らしいと言えば、牛若丸が鞍馬山の天狗に鍛えられている場面もあります。 蛙合戦は葵紋と方喰紋で戦っていますが、これは暁斎お得意の風刺ですよね?怒られなかったのでしょうか??? 

第五章 聖俗/美醜の境界線

こちらも暁斎らしいアクの強い作品が多いです。 特に前期に出ていた「処刑場跡画絵羽織」はけっこうなエグさです。 これの数日前に行った東京都美術館の「奇想の系譜展」では、岩佐又兵衛の山中常盤物語のところに「残虐なシーンがあります」的な注意が貼ってあったのですが、こちらの方がショック度高そう。 でも美術館博物館て(色んな意味で)ショックを受けに行く場所ですもんね。

ここでは、地獄太夫のように仏画のモチーフに遊女を登場させるような作品が何点かあります。 閻魔さまを四つん這いにさせてその背に乗る太夫や、奪衣婆の白髪を毛抜きで抜く綺麗なお小姓など、対比の面白さですよね。

幽霊図が2幅出ていますが、いずれも海外からの出展です。 ぞっとするような表情ですが、海外の方はどのように感じるのでしょう? そのうち1幅は五代目菊五郎の依頼で描いたということですが、五代目菊五郎は四谷怪談なんかの怪談も演じていますから、参考にでもしたのでしょうか。

第六章 珠玉の名品

大きな作品のイメージが強いですが、小型の作品もあります。 日本橋の小間物問屋の依頼で描かれた「惺々狂斎画帖」というハガキくらいの小品は、腕の刺青のような細かいところまで繊細に描かれています。

第七章 暁斎をめぐるネットワーク

暁斎には息子と娘が1人ずついて、2人とも画家になっています。 暁斎・暁雲・暁翠の親子3人で合作した湯島天神の衝立や、暁翠の軸も何点かあり100人のお福さんが琴棋書画や遊びに興じる「百福図」なんかは暁斎のDNAを感じます。

暁斎の弟子(兼パトロンでもあった)建築家のジョサイア・コンドルは、晩年の暁斎と仲良く、一緒にスケッチ旅行にも出かけています。 暁斎がつけていた絵日記には「コンデエル君」としてたびたび登場します。 コンドルは暁斎を作品をたくさん買って、帰国後には暁斎研究の本を出版したほどで、著書も展示されています。

他にも暁斎が奉納した絵画や、画帖を依頼されていた小間物屋の娘さんが亡くなった後には、娘さんがあの世で雛人形で遊ぶところも描いています。ちょっとほろりとしますよね。 絵日記を見る限り、とても楽しい老後を過ごされたのではないでしょうか。 そしてこの絵日記が書籍になって販売されていましたよ。

河鍋暁斎画の鳥獣戯画 蛙の郵便配達夫

展覧会 情報

会場:サントリー美術館(東京)
期間:2019/2/6~3/31
時間:10:00~18:00(金・土は~20:00)
料金:大人¥1,300、大高生¥1,100
公式サイト:https://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2019_1/

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