国宝『賢愚経残巻(大聖武)』
奈良時代の有名な写経で、聖武天皇が直筆で写経をしたという伝承があり、当時の他の写経より文字が大きかったので「大聖武」と通称される。 実際の筆者は、写経生などではないかと考えられている。 大聖武は非常に珍重され、古筆名筆を貼り交ぜる「手鑑」の巻頭に貼られ、有力者のステータスにもなっていた。
当時一般的に写経に用いた黄麻紙ではなく、荼毘紙(だびし)という檀(まゆみ)から作られた白い料紙が使われた。 字粒も、当時の標準では1行あたり17文字だったが、大聖武は1行が12~13字の大字で書かれた贅沢なものであった。 白鶴美術館の2巻は、甲巻は461行、乙巻は503行が収められている。
白鶴美術館の2巻の他、東大寺・東京国立博物館・前田育徳会の所蔵品が、国宝に指定されている。 この2巻も元は前田家の所有だったが、3代藩主の前田利常の息女が桂宮家に輿入れする時に同家に移り、政治家の井上馨の元を経て白鶴美術館の所有となる。
国宝に指定された『大聖武』
1951年指定 賢愚経 巻第15[東大寺/奈良]
1956年指定 賢愚経残巻3巻[前田育徳会]
1957年指定 賢愚経 残巻[東京国立博物館]
1964年指定 賢愚経 残巻[白鶴美術館]※このページ
この国宝を観るには
白鶴美術館は通常展示はなく、春と秋に3カ月ずつの展覧会が企画され、そこで公開されることがある。
公開履歴
2024/9/25~10/14、11/17~12/8 白鶴美術館「観古-いにしえをみる」
2020/10/27~12/13 大阪市立美術館「天平礼賛」
2019/9/25~12/8 白鶴美術館「文字を語る」
文化財指定データ
【台帳・管理ID】201-763
出典:国指定文化財等データベース一部抜粋
【指定番号】00254-00
【種別】書跡・典籍
【指定名称】賢愚経残巻(大聖武)
【ふりがな】けんぐきょうざんかん
【員数】2巻
【時代・年】奈良時代
【ト書】甲巻401行、乙巻503行
【所有者】白鶴美術館
【国宝指定日】1964.05.26
【説明】賢愚経【けんぐさよう】は賢愚因縁経ともいわれ、種々の譬喩因縁を収集して六十二品より成る。いま国宝に指定されているその残巻に、東大寺(一巻、四六七行)、前田育徳会(三巻、四一九行、一四六行、一八行)、東京国立博物館(一巻、二六二行)、のものがあるが、これはその分量(甲巻四六一行、乙巻五〇三行)、保存状態において、それらにまさるものである。これらはいずれも聖武天皇の御筆といわれるところから大聖武【おおじようむ】とも呼ばれ、そのわずかな断片すらつねに古筆手鑑【てかがみ】の巻頭を飾るほど珍重されているもので、荼毘紙【だびし】に一行十一字-十三字の端麗な大字で書写され、おそらく奈良時代の渡来中国人か、あるいは写経生の名手の筆になるものと思われる。