長谷川等伯・久蔵 父子のこと
等伯は、能登の下級武士の家に生まれ、仏画を中心に修行をし、やがて京に上るとやまと絵や水墨画など幅広い画風を習得する。 千利休ら堺商人や、豊臣秀吉をはじめとする武将から依頼を受け、寺院や邸宅の障壁画を多く手掛けた。 4人の息子も絵師となり、特に長男久蔵の評価が高く、等伯を超えるほどと期待されたが、26歳の若さで没している。 一門は「長谷川派」として狩野派に対抗するほどの勢力で、等伯は法橋位に次いで法眼の位まで受けている。
長谷川等伯の作品は他に、息子の久蔵を亡くした後に描いたといわれる『松林図屏風』が国宝に指定されている。
国宝『智積院 障壁画・屏風』
現在の智積院の位置には、豊臣秀吉が夭折した長男鶴松の菩提を弔うために建立した「祥雲寺」があり、これらの壁画は祥雲寺の障壁画として描かれた。 桃山時代に流行した「金碧障壁画(きんぺきしょうへきが)」で、金箔を背景に大木と四季の草花が描かれている。
壁面9間を使う「桜楓図」は、当時25歳の久蔵が勢いのある桜の大木を描き、翌年久蔵が亡くなると、等伯が楓の古木を仕上げたと伝わる。 桜楓図の他は、松の大木を中心に、黄蜀葵(とろろあおい)・菊・梅など草花が描かれる。
戦国時代には高野山にあった智積院は、関ヶ原合戦の後に家康から祥雲寺を与えられ、この障壁画も智積院の所有となる。 祥雲寺時代の建物は火災にあうが、障壁画はおそらく切り取って救出され、現在のつなぎ目が不自然なのは制作当時の一部が失われたからだと考えられる。
図柄と員数
松に草花図 床貼付4・壁貼付2
桜楓図 壁貼付9・襖貼付2
松に梅図 襖貼付4
松に黄蜀葵・菊図 床貼付4
松に草花図屏風 二曲屏風
※現在は屏風に仕立てられているが、一連の作品だと考えられる。
この国宝を観るには
2023年4月4日から展示収蔵庫宝物館オープン
智積院の拝観には、国宝障壁画の原本が保管展示される「収蔵庫」が含まれ、時間内ならいつでも拝観できる。 2021年から新収蔵庫が着工されており、新収蔵庫ではガラス越しになるよう。
あわせて見学できる「大書院」には、障壁画のレプリカがあり、写真撮影も可能。 書院では夜間拝観などのイベントが開かれることもある。
寺外での公開
2025/4/26~6/15大阪市立美術館「日本国宝展」※展示期間未確認
2022/11/30~2023/1/22 サントリー美術館「智積院の名宝」
2021/7/24~8/22 京都国立博物館「京の国宝」松に秋草図屏風
2020/10/6~11/29 東京国立博物館「桃山-天下人の100年」楓図
文化財指定データ
【台帳・管理ID】201-44
【指定番号】00041-01
【指定名称】紙本金地著色松に草花図〈床貼付四/壁貼付二〉
【台帳・管理ID】201-45
【指定番号】00041-02
【指定名称】紙本金地著色桜楓図〈壁貼付九/襖貼付二〉
【台帳・管理ID】201-46
【指定番号】00041-03
【指定名称】紙本金地著色松に梅図〈襖貼付四/〉
【台帳・管理ID】201-47
【指定番号】00041-04
【指定名称】紙本金地著色松に黄蜀葵及菊図〈床貼付四/〉
【台帳・管理ID】201-10382
【指定番号】00042-00
【指定名称】紙本金地著色松に草花図〈/二曲屏風〉
【種別】絵画
出典:国指定文化財等データベース一部抜粋
【時代・年】桃山時代
【所有者】智積院
【国宝指定日】1952.03.29
鑑賞ログ
2018年11月
京都博物館のお隣にあるけど、門構えが観光寺院っぽくなくて、ちょっとだけ入りづらい智積院さんです。 以前、宿坊のレストランでランチをしたことがあるのですが、宿坊の改修工事で今回は開いていませんでした。
受付をすると、まず国宝障壁画のある収蔵庫に入ります。 ちょうど信徒の方々がお坊さんの説明を受けているところで、まわりの観光客も勝手にご相伴にあずかって、絵画の説明が聞けました。 普段はボタンを押すと説明が流れるようですが、やっぱり人に説明してもらった方がうれしいですよね。
この収蔵庫はガラスなしで展示されていますが、あと数年で改修工事に入るそうで、改修後はガラス越しになってしまうようです。 宿坊がある頃は、朝のお勤めの後に蝋燭の光で鑑賞出来て、素晴らしい仕掛けがあるそうなんですが、宿坊の再オープン後はガラス越しになってしまうのかな? 間に合うなら宿坊に泊まりたいものです。
ここを観てから大書院に行くと、制作当時の色彩に復元された、キンキラ華やかなレプリカが観られます。 畳に座って鑑賞できますし、実際の書院造の中にあるので、それはそれは豪奢なものです。