開館60周年記念展 ざわつく日本美術
インパクトのありすぎる、5代目尾上菊五郎の石版画が大々的に使われたチラシの「ざわつく日本美術」です。 週刊誌風のちょっとゲスめな見出しが並び、またサントリー美術館が捻りのきいた楽しい魅せ方をしてくださるかと期待が膨らんでいましたが、エントランスから期待を裏切りません。 ホーンテッドマンション風に眼の光る、たくさんの5代目菊五郎に迎えられるという洗礼からスタートです。
開館60周年を記念したこの展覧会は、美術品を正面から鑑賞するだけでなく、美しさだけでない心がザワザワするような作品や、ちょっとした発見がある鑑賞の角度が提案されています。 全6章に分かれて各テーマごとに、国宝1点、重要文化財7点を含む、館蔵品が並びます。 昨年から続く館蔵品展で、記憶に新しい作品もいくつかありますが、病草紙の断簡など昨年は公開されなかった作品もありました。 とにかく見せ方がオシャレで楽しい展覧会ですので、初心者から見巧者の方まで、楽しめると思います。
第1章 うらうらする
美術品の「裏」がテーマで、陶磁器の底にある模様や文字、能面や刺繍は表裏の両方が鑑賞できるようになっています。 作品の裏だけでなく、この屏風の「裏菊」のように裏を描いた作品もありました。
第2章 ちょきちょきする
断簡されなければ間違いなく国宝という佐竹本の三十六歌仙絵は、鎌倉時代に流行った「似絵」という表現で描かれています。 姿の特徴や表情を細かく表すもので、アンニュイな表情がたまりません。 この写真のように、ちょきちょきする前はどんな姿だったかわかるのも楽しいです。
第3章 じろじろする
この章はじろじろとしっかり鑑賞するコーナーで、写真の宝尽くしのように細かい模様や、図案化された模様などの衣装類が多めです。 京博所蔵の国宝『病草紙』の断簡も出ていて、これは暗い部屋と、女性の心の闇を重ねてみるという、ちょっと深いじろじろでした。
第4章 ばらばらする
タイトル通り、1つの作品をバラバラに展示しています。 意外な蓋が付いている道具類が、写真のようにパネル越しに置かれていたり、ズラリと並んだ手箱の身と蓋がバラバラでクイズのようになっていたり、アトラクションのようなコーナーでした。
第5章 はこはこする
国宝の手箱も登場するこの章は、作品をしまう「箱」がテーマです。 作品によっては、どちらが中身かわからないような、家紋入りの豪華な箱が付いていたり、代々の所有者が作らせた箱がずらりと並んだり。 しかも、箱と作品が別々に展示されていて、床の→で探す仕掛けになっています。
第6章 ざわざわする
ここはちょっと抽象的なテーマで、心がざわざわするような作品です。 不気味でざわざわするものもあれば、放屁合戦のように愛嬌のあるバカバカしさでざわざわするものもあり、観る人によって好みのざわざわを見つけられそうです。
この展覧会で観られる国宝
浮線綾螺鈿蒔絵手箱
「手箱」は、平安~鎌倉時代頃に多く作られ、貴人が化粧道具など身近なものを入れていました。 神社の古神宝にもよく含まれるので、単独での指定を含め多くの手箱が国宝になっています。 サントリー美術館が所蔵するこの国宝は、十二単などに使われる綾織物のような模様「浮線綾」が、螺鈿と蒔絵で表されたとても品の良い手箱です。
昨年のリニューアル記念展覧会でも公開されましたが、今回はなんと手箱をしまう外箱も一緒に公開されているんです。 箱の蓋裏には、中に収めたものの由緒や伝来を記す「箱書き」があり、北条政子の愛玩品だと書かれています。 江戸時代に書かれたもので、このような手箱には虫食いや破損があるが、この手箱が良い状態で残っているのは、政子の愛玩による威霊によるものとのこと。 こういった箱は、高名な茶人や大名が書いたものが時々公開されますが、あまり表に出るものではないので、舞台裏を覗けたような楽しい気分になりました。
展覧会 概要
期間:2021/7/14~8/29
休館:火曜日(8/24は開館)
時間:10:00~18:00(入館は30分前まで)
夜間:金・土・7/21・7/22・8/8は20時まで(入館は30分前まで)
料金:一般¥1,500、大高生¥1,000、中学生以下無料
サントリー美術館 公式サイト