国宝手鑑「見努世友」と古筆の美
新型コロナで臨時休館になってから、約2年ぶりの展覧会となる出光美術館は、修理が終わったばかりの国宝手鑑「見努世友(見ぬ世の友)」が主役の古筆の展覧会です。 真ん中の第2室は見努世友と他の手鑑が集められ、その前の第1室は手鑑に貼られたものの以前の姿といったような、古写経や和歌集の断簡が集められています。 続く第3室には古筆に影響を受けた時代や、手鑑を観ていたであろう人達の筆跡が並びます。 くずした文字は慣れるまで読むのが難しいですが、今回はほとんどの作品に読み方の掲示がありましたので、古筆を読む練習にちょうどいい機会になるのではないかと思います。 古筆が特に珍重される背景になった「茶の湯」に関する展示もあるようです。
出光美術館の楽しみは、鑑賞後に皇居外苑の緑を眺めながら、給茶機のお茶を飲むことでしたが、残念ながら給茶機は中止されています。 それでも茶室の展示を覗きながらベンチで景色を眺めると、ちょっとずつ日常が戻ってきているなと実感できます。 早くルオー室や陶片室も再開するといいですね。
この展覧会で観られる国宝
手鑑 見努世友(見ぬ世の友)
手鑑は聖武天皇以来の皇族や公家、僧侶や女房などの筆跡が、数行から1枚程度集められたもので、現在のスクラップブックやコレクターブックのようなものです。 ジャバラ状のアルバム仕立てになっているので、この見努世友のように有名な手鑑は、せっかく公開されても展示スペースの関係で、その一部しか観ることができません。 今回の修理では、展示台との擦れを防ぐために、表面と裏面を別々の冊子に分けたということで、表裏が同時に公開される初めての機会ではないでしょうか。 2室目の長い展示ケースをフルに使って、かなりの部分を公開して下さっていますが、もちろん観られない部分のほうがはるかに多いのです。 いつか、1週間ごとに頁替えして全頁公開、といった企画をしてもらえないでしょうか。
この展覧会で観られる国宝の「断簡」
古筆を観賞していると「断簡(だんかん)」という言葉を耳にしますが、名前の通り古くは巻物や冊子だったものの一部です。 侘茶の流行で茶席の掛軸に書が好まれるようになると、和歌集や古写経、手紙までがほどほどの大きさに切って(継ぎ目から剥がして)掛軸に仕立てられました。 断簡自体は国宝ではありませんが、元は1つの作品だったものが国宝に指定されているものをまとめてみました。
国宝『扇面法華経冊子』[四天王寺・東京国立博物館]
扇状の装飾料紙を使った冊子状の装飾経で、元は10巻あったものが、現在は四天王寺に5帖と東京国立博物館に1帖が所蔵され、この他に断簡が各所に残っています。 各頁にはやまと絵で貴族や庶民の様子が描かれていて、経典ですが「絵画」として国宝に指定されています。 鳥羽上皇の皇后が奉納したと伝わるもので、ちょうど「鎌倉殿の13人」の頃に作られたということになるでしょうか。
国宝『金銀字一切経(中尊寺経)』[高野山金剛峯寺]
中尊寺経という名前の通り、奥州藤原氏3代によって奉納された一切経の一部です。 現在はその大半が高野山にあって、金字と銀字が1行ずつ交互に書かれているのは、初代清衡によって奉納されたものです。 銀字は黒ずんでいますが、金字は今でも美しく輝いています。
国宝『古今和歌集巻第廿(高野切本)』[高知城歴史博物館/高知]
平安時代に作られた古今和歌集で、高野山にあった時期があるので「高野切(こうやぎれ)」と通称されています。 古くは紀貫之によって書かれたと伝承されていましたが、現在では3名の人物によって書かれたと考えられており、この断簡は土佐藩山内家に伝来した第20巻と同じ筆者で、最も格が高いとされています。
国宝『三十六人家集』[西本願寺/京都]
平安時代末に作られた和歌集で、三十六歌仙1人ずつが各々1~2冊の冊子に編まれています。 色とりどりの和紙を不規則な形に貼り合わせる「継紙」をはじめ、染め紙や唐刷り、雲母や金銀箔で装飾するなど、とても華やかな料紙が有名です。 昭和初期に「貫之集下」と「伊勢集」が売り建てられて、断簡になって各地に所蔵され、今回は出光美術館所蔵の3点が観られます。
展覧会 概要
日程:2022/4/23〜6/5
時間:11:00~16:00(入館は30分前まで)
休館:月曜日
料金:一般¥1,200、高大生¥800、中学生以下無料
※現在は事前予約制になっています。
出光美術館 公式サイト