国宝建造物の修復
国宝建造物が作られた時代は古くは飛鳥時代に遡り、数百~千年を超える期間には何度も解体工事や修理がされています。 建造物はほとんどが屋外で雨ざらしになっていますし、檜皮葺きの屋根は30~40年おきに葺き替えが必要など、修理修復が必要不可欠です。 国宝というと全面的に国が保護してくれそうなイメージもありますが、残念ながらそこまでの予算は無いようで、各自治体と所有者が費用を出し合って修理を進めるケースが多そうです。 修復には莫大な費用がかかるので、ご開帳や特別公開を開いたり、最近ではクラファンで費用を募るケースもあるようです。
現代で行われる修理も長い歴史の一部になって、長く後世に日本の文化が伝わるというのは素晴らしいですが、せっかく拝観や見学に行ったのに修理中で残念な景観だとガッカリするのも事実です。 ですが、その建物の歴史では貴重な瞬間だと思って、できるだけ楽しむようにしています。 このページでは、ここ数年で観た修理現場の様子をまとめてみました。 特に修理現場の公開では技法や建材について学べたり、普段では見られない場所も見学できたりと、建造物を観賞するうえで勘所になる知識をたくさん吸収できますので、皆さまも修理現場の公開を観る機会があれば、ぜひとも参加なさってください。
妙法院 庫裏-京都府文化財建造物修理現場公開2021
令和2年(2020年)~令和9年(2027年)に半解体での修理が進んでいる妙法院の国宝『庫裏』(寺院の台所)は、修理が始まってから巨大な建物全体がシートに覆われていますが、毎年恒例の京都府による文化財建造物修理現場公開で1日限定で公開されました。 事前にネットで応募し、当選のハガキが届いたら見学できるという少々面倒なものですが、無事に当選したので見学してまいりました。
受付でハガキを見せるとヘルメットを渡され、かぶると修復のために組まれた足場のスロープを上がっていきます。 登った先は屋根の軒先正面あたりで、瓦を外した土台の板が並んでいます。 この公開の素晴らしいところは、府の職員の方が要所要所にいらして、修復に関する事を解説してくださいます。 屋根の下に敷かれた板のノミの跡が、手作業か機械によるものか(写真4枚目)といった説明や、材木の組み方について触れる模型が準備されていたり、社会科見学のようで歴史好きも建築好きにも嬉しい見学会でした。
この時に頂いた文化財建造物の修復に関する冊子では、国宝の『大徳寺 方丈・玄関』『龍吟庵(竜吟庵)方丈』『広隆寺 桂宮院本堂』などが修理されていると記載されていました。 来年の公開ではどこが公開されるでしょうか、今から楽しみです。
延暦寺 根本中堂-平成の大改修
平成28年(2016年)から約10年間の「平成の大改修」に入っている延暦寺の国宝『根本中堂』は、手前にある重要文化財の廻廊と共にすっぽりと覆い屋に囲われています。 根本中堂は独特な作りになっていて、仏像仏具が安置され僧侶の方がお勤めをされる内陣が、参拝客のいる中陣・外陣よりも3mほど低くなっているのです。 このため、一般的に見上げることが多い仏像(本尊は秘仏のため御前立)が同じ目線で、内陣を覗くと僧侶の方々が下の方にいらっしゃいます。 この内陣は土間になっていて、現在は修復のための足場がたくさん組まれた状態です。
根本中堂の手前には中庭があり、修復期間にはこの中庭に「修学ステージ」という見学台が作られています。 こちらは参拝すると見学できて、階段を一番上まで上がると本堂の屋根の軒先あたりの目線になります。 この修学ステージでは写真撮影もOKで、修復が進む様子を撮影できますので、また数年経ったら行って修復の進み方を比べてみたいと思います。
国宝建造物の修理風景いろいろ
この数年で見かけた国宝建築の修理現場の写真です。 遠方など行くのが難しい場所が覆い屋に囲われているとガッカリ感がものすごいですが、めげずに記念撮影をしておきましょう。 いつか再訪出来た時に、生まれ変わった姿と並べると感慨深いですよ。
2009年から2020年まで平成の大修理が行われていた国宝『薬師寺 東塔』
この修理で出た古材1,540点は、東塔の附として文化材に指定されることが発表されました。 2021年には内部中心の心柱の公開が行われ、2022年には初層内部に釈迦四相像が安置されるようです。
2018年~2022年にかけて修復されていた国宝『西本願寺 唐門』
屋根の檜皮葺や、彫刻の色彩が修復されたので、ピッカピカに生まれ変わりました。 境内の端の方にあって目立ちませんが、開門時間内はいつでも無料で観ることができます。
2008年~2020年にかけて大改修が行われていた国宝『清水寺 本堂』
屋根の檜皮が葺き替えられ、張り出した舞台の部分も新しい木材になりました。 今は舞台部分だけ白木でちょっと違和感がありますが、これが馴染んでいくのも歴史の
2013年~2020年まで修復工事が行われていた国宝『宝厳寺 唐門』
こちらも西本願寺の唐門と同じように、屋根の檜皮と彫刻や黒漆の修復がされたので、建造当時を偲ばせるきらびやかな姿に戻りました。
2022年から約120年ぶりの大修理に入る国宝『興福寺 五重塔』
今回は全て解体しての大修理だそうで、すぐに修復に取り掛かるのではなく、調査をしてからになるようです。 すでに後ろ側には足場が組まれています。
修理前の特別公開ということで、2021~2022年にかけて初層内部に入れる特別拝観がありましたが、2022年の春はコロナの関係で延期になっています。