當麻寺と當麻曼荼羅
寺伝では、聖徳太子の弟「麻呂古王(まろこおう)」によって推古天皇20年(612年)に建立され、麻呂古王の孫「當麻国見(たいまのくにみ)」が役行者の領地である二上山の東に遷造し、寺名を「當麻寺」と改めて、當麻氏の氏寺になりました。
當麻寺の本尊は、奈良時代の貴族の姫君「中将姫」が一夜にして蓮糸で織りあげた「當麻曼荼羅」ですが、創建当時は現在の参道の途中にある「金堂」が本堂で、金堂に安置された弥勒仏が當麻寺の本尊でした。 浄土信仰の盛り上がりと共に、いつしか阿弥陀如来の極楽浄土を織り出した『當麻曼荼羅』が本尊になったようです。
中将姫伝説
藤原豊成の娘「中将姫」は、幼い頃から深く仏教に帰依しますが、継母のいじめにあい家を出て隠棲生活を過ごします。 都に戻った中将姫が1,000巻の写経をすると、西空に阿弥陀仏と極楽浄土の様子が見えました。 出家を志した中将姫は導かれるように當麻寺に着きますが、当時の當麻寺には尼僧はおらず入山できなかった為、門前の石上で祈ると数日で石に足跡が刻まれ、それを見た別当は女人禁制を解いて中将姫を迎え入れました。
尼僧になった中将姫は、蓮の茎を集めよというお告げを受けて、父の力を借りて蓮の茎を集め、井戸で清めると5色に染め上がりました。 若い女性が現れて、蓮の糸と中将姫を堂に導き、翌朝になると若い頃に西の空に見た阿弥陀如来と浄土が曼荼羅に織り上がっていました。 その後、中将姫は阿弥陀如来に迎えられ、極楽浄土へ往生します。
中将姫と當麻曼荼羅-祈りが紡ぐ物語-展
伝説では蓮の糸で作られたとされる国宝『當麻曼荼羅』ですが、実際には絹製の綴れ織りで、奈良時代頃の日本か唐時代の中国で作られたと考えられています。 古い時代から摸本がたくさん作られていたようで、あちこちの寺院や博物館で、當麻曼荼羅を目にする機会があります。 今回は、江戸時代の延宝~貞享年間に制作された、重要文化財「貞享本當麻曼荼羅」の修理完成を記念した展覧会です。 この摸本は根本本と同じように大型で、霊元天皇の宸筆が加えられていて、當麻寺に伝わっています。 制作から300余年ですので、まだ鮮やかな図像が残るので、當麻曼荼羅に描かれた諸仏や浄土の様子を細かく観ることができます。 當麻曼荼羅に関する資料や當麻寺の寺宝の他に、現代の入浴剤のような「中将湯」に関する資料や、芝居や浮世絵に描かれた中将姫の姿も紹介される、興味深い構成です。
この展覧会で観られる国宝
当麻曼荼羅厨子「厨子扉」[當麻寺/奈良]
當麻曼荼羅を納めた厨子で、天井まで届く大きさの黒漆塗りの厨子です。 国宝の厨子は當麻寺の本堂に安置されていますが、蓮の蒔絵が美しい扉は外されて、奈良国立博物館に寄託されています。 厨子本体は當麻寺でいつでも観られますが、扉はあまり公開されないレアなものです。
綴織当麻曼荼羅図「軸内納入文書」[當麻寺/奈良]
※曼荼羅図本体は公開なし
今回は残念ながら国宝『當麻曼荼羅』の公開はありませんが、その一部でもある「軸内納入文書」が出展されます。 展示リストでは江戸時代となっているので、修理の際に納められたものでしょうか。
当麻曼荼羅縁起[光明寺/神奈川]
前期は上巻、後期は下巻
和紙の長辺を継いだ大型の絵巻で、年に1度ほどは寄託中の鎌倉国宝館で公開されます。 穏やかな色彩の絵巻物で、阿弥陀如来が来迎するところは、諸仏がおっとりした顔で描かれてとても可愛らしいです。 前後期で上下巻がそれぞれ公開されるようです。
一遍上人絵伝(一遍聖絵) 巻第8[遊行寺/神奈川]
前期(7/16~8/7)のみ公開
一遍聖絵は、時宗の開祖「一遍上人」の生涯が描かれた絵巻物で、行脚で訪れた先の日本各地の名所が細かく描かれているので、歴史資料としても評価が高いのです。 今回は全12巻(第7巻だけは東京国立博物館所蔵)の内、第8巻が公開されますが、おそらく當麻寺が描かれた部分だと思われます。
法然上人行状絵図 巻第6[知恩院/京都]
後期(8/9~8/28)のみ公開
後期に一遍聖絵に替わって公開されるのは、浄土宗の開祖「法然上人」の生涯が描かれた法然上人行状絵図です。 こちらは制作された全48巻が揃って現在まで伝わる貴重なもので、法然上人の事績だけでなく、法話や弟子の事績などまで含まれる大規模なものです。 公開されるのは當麻寺に関する部分でしょうか、中将姫に関する部分でしょうか。
當麻寺での特別公開
當麻寺 東塔・當麻寺 西塔 初層特別開扉
展覧会期間(7/16~8/28)の土日祝のみ
當麻寺の東塔・西塔の初層が開扉されます。 前回の公開は平城遷都1300年記念の2010年だったようで、とても珍しい機会ですので、行ける方はぜひこのチャンスを逃しませんように。 東塔・西塔とも、大日如来が安置されているようです。
当麻曼荼羅厨子 秘仏「裏板曼荼羅」ご開帳
展覧会期間(7/16~8/28)毎日
當麻曼荼羅は、古い時代の修理で板に貼り付けられていた時代があり、江戸時代の修理で板から剥がされています。 この時に、繊維が残ってうっすら図像が残ったものが「裏板曼荼羅」と呼ばれています。 普段は厨子の裏扉が閉じられていますが、展覧会期間中は開扉されるようです。
展覧会 概要
日程:2022/7/16~8/28
休館:毎月曜日(7/18と8/15は開館し、7/19は休館)
時間:9:30~18:00(入館は30分前まで)
夜間:毎土曜は19時まで
料金:一般¥1,600、高大生¥1,000、小中生¥500
奈良国立博物館 公式サイト