智積院のこと
京都国立博物館と三十三間堂の間をはしる七条通りの東の突き当りにある「智積院(ちしゃくいん)」は、新義真言宗の智山派の総本山です。
新義真言宗は、平安時代末期に高野山の中興の祖といわれる「興教大師覚鑁(こうぎょうたいしかくばん)」が開いた教えで、高野山で旧来の教義と衝突すると、覚鑁は高野山を離れて和歌山県の根来山に拠点を構えます。 智積院はその塔頭の中でも最高の学問機関でした。
現在の智積院の場所にはかつて「祥雲寺(祥雲禅寺)」があり、これは幼くして亡くなった愛児鶴松の菩提を弔うために、豊臣秀吉が建立した寺院でした。 根来寺が秀吉の焼き討ちにあって、一山は壊滅状態になりますが、その後に政権をとった徳川家康によって復興を果たし、祥雲寺があった地を与えられて智積院としました。
サントリー美術館「智積院の名宝」展
日本の古美術や仏教美術の展覧会が数年に1度は開かれるサントリー美術館ですが、この冬は智積院の名宝ということで、出展は全て智積院所蔵のようです。 智積院が現在の地に移ったのは戦国時代の終わり頃ですが、真言宗の一派の総本山ですので、もっと古い時代の貴重な仏像や仏画、経典などもたくさんお持ちです。 今回出展される国宝2件のうちの1つ、中国・南宋時代の能書家「張即之」による『金剛経』をはじめ、南宋~明時代の中国の書画や高麗仏画など、東アジア圏の作品も目立ちます。
それから、特別公開の時にしか観ることができない堂本印象画伯による「婦女喫茶図」という襖絵は昭和33年(1958)に描かれたもので、洋装と和装の女性がガーデンテーブルでお茶を飲む姿を描いた超モダンな作品です。 こういった近代的な絵が寺院にあるとビックリしますが、長い長い歴史の中では、その時々に驚くような作品が生まれて、時の経過と共に少しずつ馴染んでいくのかなと思ったりします。 例えば、今ではよく見る虎の襖絵なども、それまでの山水図を見慣れた目にはとっても斬新に映ったはずで。と、話がそれてしまいましたが、1つの寺院の寺宝をまとめて観られるので、そのお寺の歴史や文化を色々な角度から考えると、より楽しめそうかなと思います。
この展覧会で観られる国宝
国宝『障壁画』長谷川等伯・久蔵筆[智積院/京都]
(楓図・桜図・松に黄蜀葵図・松に秋草図・雪松図)
智積院の名宝といわれてまず思い浮かぶのは、長谷川等伯とその息子の久蔵による障壁画で、金箔に樹木や四季の花々を描いた華やかな作品です。 この作品は智積院の収蔵庫に展示されていたので、拝観料を払えばいつでも観ることができましたが、この度新しく宝物館を作られるようで、今回の出張から戻ったら新しい館で展示されるようです。 以前はガラス無しの展示でしたが、新しい館ではガラス越しの展示になるようです。 等伯のもう1つの国宝は、東博に所蔵されている『松林図屏風』ですが、松林図は息子の久蔵を亡くした失意のうちに描かれたという説もあり、父子で合作した智積院障壁画の華やかさと比べると、ちょっと切なくなりますね。 松林図は1月上旬に東博で公開されるので、このお正月は等伯の国宝をハシゴすることも可能です。
国宝『金剛経』張即之筆[智積院/京都]
中国・南宋時代の能書家「張即之(ちょうそくし)」による金剛経の写経です。 張即之は役人だったようですが、禅僧たちの間でその書風が流行したようで、日本からの入宋僧らによって日本にも作品がもたらされています。 この金剛経の他に、東福寺が所蔵する国宝『禅院額字』の内の何点かが、張即之の筆によるものです。 この作品は障壁画よりも公開が少なく、東京で観られるのは貴重だと思います。
展覧会 概要
期間:2022/11/30~2023/1/22
休館:毎火曜日、12/30~1/1
時間:10:00~18:00(金土は~20:00)
料金:一般¥1,500、大高生¥1,000
サントリー美術館 公式サイト