大蒔絵展
蒔絵(まきえ)は、漆を塗った上から金属粉や金銀箔を巻いたり、形抜きした夜光貝や金属片を貼るなどで模様を描き出す工芸で、日本では奈良時代頃から作られていました。 以来、宮中や寺社を彩ったり、武将の奉納品にされたり、公家や大名家で豪華な嫁入り道具が作られるなど、常に有力者の身近にありました。 南蛮貿易で漆工芸品が西洋に伝わると、陶磁器の「チャイナ」に対して漆器は「ジャパン」の愛称で呼ばれたほど日本を代表する工芸品で、マリーアントワネットも日本の蒔絵を愛玩していたそうです。
今回は、2022年春の熱海のMOA美術館を皮切りに、2022年秋には東京の三井記念美術館、2023年春には名古屋の徳川美術館と、3館の共催で蒔絵の歴史を振り返るようです。 巡回ですが、展示内容は展覧会ごとに異なるようなので、可能なら全て観てみたいものです。 3館で展示品が異なるのに加え、MOA美術館のリストを見ると前後期でもかなりの数の展示替えがあるようで、平安~寛永頃の江戸時代初期まではほとんどが入れ替えになります。 国宝は後半の方が数が多いですが、源氏物語絵巻は最初と最後の8日ずつだけなので、お目当てのある方はチェックをお忘れなく。
この展覧会で観られる国宝
通期
手鑑 翰墨城 [MOA美術館/静岡]
MOA美術館が所蔵する3件の国宝のうちの1つで、古代からの名書家の筆跡を集めたスクラップブックです。 ジャバラ状の台紙に貼られていて、公開できる部分が限られるので、今回は誰の書が公開されるのか楽しみです。
婚礼調度(初音の調度)[徳川美術館/愛知]
前期(4/1~4/20)「初音蒔絵貝桶」「初音蒔絵十二手箱」
後期(4/22~5/8)「初音蒔絵文台・硯箱」「胡蝶蒔絵挟箱」
徳川家光の長女「千代姫」が、わずか2歳数か月で尾張徳川家へ嫁いだ時に持参した婚礼道具で、源氏物語の「初音」や「胡蝶」の巻をモチーフにした蒔絵で彩られています。 所蔵する名古屋市の徳川美術館では、どの期間に行っても1点のお道具が公開されていますが、今回は前期と後期で2点ずつが公開されます。
4/1~4/8・5/1~5/8
源氏物語絵巻[徳川美術館/愛知]
国宝に指定された源氏物語は、徳川美術館と五島美術館が所蔵していますが、これらは元は一連の作品でした。 この絵巻物は、源氏物語が書かれた時代に近い平安時代末期頃に作られたので、そこに描かれた衣装や調度などが歴史資料としても重視されているので、貴族邸での蒔絵の調度類が観られるかと期待しています。 公開は会期初と会期末の各8日間のみで、4月は「柏木1」が、5月は「宿木1」が公開されます。
前期(4/1~4/20)
籬菊螺鈿蒔絵硯箱[鶴岡八幡宮/神奈川]
源頼朝が後白河法皇から下賜されて、妻の政子が愛玩していたと伝わる硯箱で、螺鈿で籬と生い茂る菊が表されています。 元は同じ意匠の手箱があったのですが、明治初期にウィーン万博へ出展された帰途の伊豆沖で船が沈没し、失われてしまいました。
浮線綾螺鈿蒔絵手箱[サントリー美術館/東京]
こちらも北条政子のものだったという伝承がある手箱で、浮線綾(ふせんりょう)という公家の衣装などに使われる模様が螺鈿蒔絵で全体に施されています。 内側は表とはうって変わって、枝折れの植物が柔らかに描かれています。 籬菊硯箱やこの手箱のような渋い金色の表面は、漆を塗った上に金銀粉を巻く「沃懸地(いかけじ)」と呼ばれる技法です。
4/17~5/8
本宮御料古神宝類[春日大社/奈良]
この国宝は、平安時代を中心に春日大社に奉納された300点近い神宝類で、武具や調度品など内容は多岐にわたります。 中でも平安時代の蒔絵の傑作といわれるのが、今回出展される「山水蒔絵箏」で、琴の表面全体に山水が大胆に蒔絵で表現された豪華なものです。
後期(4/22~5/8)
梅蒔絵手箱[三嶋大社/静岡]
これも北条政子が奉納したと伝わる手箱で、内容物の化粧道具類までほとんど全て揃っています。 沃懸地に、梅の木がある水辺に遊ぶ雁が描かれ、漢字を絵に溶け込ませるように散らす「葦手」で、白楽天の詩からとった「榮・傳・錦・帳・雁・行」が見えます。
熊野速玉大社 古神宝類[熊野速玉大社/和歌山]
和歌山県の熊野速玉大社に奉納された古神宝類で、室町時代に足利義満によって奉納された品々が中心になっています。 蒔絵の手箱がたくさんありますが、今回は「桐蒔絵手箱」が公開されるようです。
海賦蒔絵袈裟箱[東寺/京都]
東寺には空海が唐から伝えた宝物類が多くあり、これは空海が師の恵果から授けられた国宝『犍陀穀糸袈裟』を納めるために日本で作られた袈裟箱です。 いつ頃作られたかは分からないようですが、平安末期の記録には記載があるようです。 名前の通り、魚や亀など水の生き物が描かれています。
澤千鳥螺鈿蒔絵小唐櫃[金剛峯寺/和歌山]
唐櫃(からびつ)は書状や経典を納めた容器で、4本か6本の脚が付いた中国風の箱です。 昭和26年(1951年)に現行法での第1回国宝指定で指定されています。 岩や草花で風景が描かれた中に、千鳥が飛び交う様子が螺鈿蒔絵で表されています。
一字蓮台法華経(普賢勧発品)[大和文華館/奈良]
平安~鎌倉時代に流行した華やかに装飾した経典の「装飾経」で、お経の1文字1文字が蓮の台に乗っているので「一字蓮台法華経」と呼ばれるものです。 第2章のテーマ「神々と仏の荘厳」で、何点かの装飾経が紹介されるようです。
法華経(久能寺経)[鉄舟寺/静岡]
こちらも装飾経で、静岡の久能寺(明治期に鉄舟寺に改名)に伝来したので「久能寺経」と呼ばれています。 鳥羽天皇と皇后待賢門院を中心に制作されたもので、1人が1巻の書写を受け持ち結縁しています。 今回は「化城喩品」と呼ばれる1巻が公開されます。
展覧会 概要
日程:2022/4/1~5/8
時間:9:30~16:30(入館は30分前まで)
休館:毎木曜日(5/5は開館)
料金:一般¥1,600、大高生¥1,000、中学生以下無料