大安寺のこと
奈良公園の南に広がる「ならまち」と、薬師寺や唐招提寺のある「西ノ京」の中間ほどにある寺院で、元は聖徳太子の創建による熊凝精舎(くまごりしょうじゃ)だと伝わりますが、移転と改称を繰り返して平城遷都後は現在の場所で大安寺となります。 かつては南都七大寺(他は、東大寺・興福寺・元興寺・西大寺・薬師寺・法隆寺)にも数えられるほどの大規模な官営寺院で、最盛期は8万坪(東京ドーム6個弱)の敷地に9百名近い僧が暮らしたのだそうです。 東大寺大仏の開眼供養を行った渡来僧の菩提僊那(ぼだいせんな)や、空海の師といわれる勤操、最澄に得度を与えた行表も大安寺の僧です。 寛仁元年(1017年)の火災で伽藍を焼失し、その後も戦災や天災にみまわれて、大安寺は衰退の途をたどりますが、寺宝は近くの寺々や周辺住民の力添えもあり、現在まで伝えられてきました。 周辺には大安寺の足跡を記した案内板や石碑なども多いので、大安寺参拝のついでに周辺の散策もしてみてください。
大安寺のすべて 展
春の奈良国立博物館は「大安寺のすべて」で、大安寺に伝わる寺宝と、現在は別の寺にある大安寺の旧蔵品が一堂に会します。 現在はそれほど大きい寺院ではありませんが、大安寺の旧蔵品だったものや、資料に名前が登場するなど、仏教美術好きにはおなじみの寺院です。 なかなかまとめて観る機会は少ないと思いますので、GWのご予定が未定の方はぜひどうぞ。
まず、チラシの表面で印象的な仏像は、現在も大安寺に伝わる9躯の仏像で、全て奈良時代のものです。 手前の伝楊柳観音像や上部の伝聖観音像は、ちょっと独特な雰囲気で、2019年に国宝指定された唐招提寺の木像を思い出しました。 両寺とも渡来僧がいた寺ですので、海外の流行が反映されているのでしょうか、興味深いです。
それから、展覧会の開始と同日の4/23から始まる、興福寺の国宝『北円堂』特別開扉もぜひご覧いただきたいです。 中に安置される運慶作の『弥勒如来坐像』『無著・世親菩薩立像』が有名ですが、実はこちらの国宝『四天王立像』は大安寺にあったものなんです。 大安寺展の話を聞いた時に、こちらの四天王もきっと出張されるのだと思ったのですが、GWのご開帳が優先なのでしょうか。 といっても、奈良博と興福寺は徒歩10分もかかりませんので、帰りに寄ればいいですもんね。 このご開帳は大安寺展より一足早く5/8で終了してしまうので、ご注意ください。
この展覧会で観られる国宝
通期
銅板法華説相図(千佛多寶佛塔)[長谷寺/奈良]
朱鳥元年(686年)に天武天皇の病気平癒を祈願して、この銅板を安置したのが長谷寺の始まりなのだそうで、鋳出と押出の技法を併用して作られています。 中央の塔には多宝如来と釈迦如来が並び、周辺には諸仏がたくさん配されています。 下部左右の金剛力士は日本最古の作例なので、見逃さないようにしてください。
義淵僧正坐像[岡寺/奈良]
岡寺を開いた義淵は、日本で最初に僧正位を贈られた僧です。 この像は「木心乾漆」という技法で、ざっくりと木で像の形を作って、その上に木屑と漆を混ぜたものを置いて細かい形を作っているのです。 胸元などに、木造仏にはみられない細かいひび割れがあるのは、この技法だからなんです。
金銅透彫舎利塔(透彫舎利容器)[西大寺/奈良]
6柱の円筒形で、細かい透かし彫りが美しい鎌倉時代の名品で、元は大安寺に安置されていたものなんだそうです。 宝珠が乗る花弁型の屋根の先は、上に反る蕨手に風鐸と瓔珞の装飾が下がり、六角堂のような作りになっています。
八幡三神坐像(僧形八幡神・神功皇后・仲津姫命)[薬師寺/奈良]
薬師寺の鎮守社「休ヶ岡八幡宮」に安置されていたもので、高さ30cmほどと小型でですが彩色されていて、とても品の良い平安時代らしい神像です。 奈良博に寄託されているようで、何年かおきに「なら仏像館」に展示されますが、今回は約2年ぶりの登場です。
4/23~4/29
勤操僧正像[高野山普門院/和歌山]
空海の師だという説のある大安寺の僧「勤操(ごんそう)」の肖像画で、空海が描いたと伝えられてきました。 高野山にある普門院が所有していますが、あまり公開されないので、公開期間は短いですが予定があうなら観ておきたい逸品です。
前期(4/23~5/22)
日本霊異記 上巻[興福寺/奈良]
日本霊異記は、薬師寺の僧「景戒」が編纂した仏教説話集で、平安時代初期に成立したと考えられています。 大正時代に発見されたこの写本は、日本霊異記が成立してから100年ほど後の延喜4年(904年)に書かれた現存最古の古写本で、他の写本にはみられない話も載っているそうです。
刺繍釈迦如来説法図(勧修寺繡帳)[奈良国立博物館]
飛鳥~奈良時代に流行した刺繍による仏画「繍仏」で、中央に赤い衣の釈迦を大きく描き、周辺には上部に菩薩、中ほどに仏弟子、下方には在家信者が数多く配されています。
現代の刺繍のチェーンステッチのような技法「鎖繡い」で埋め尽くされていますので、ぜひ細かいところまでご鑑賞ください。
後期(5/24~6/19)
倶舎曼荼羅図[東大寺/奈良]
南都六宗の1つ「倶舎宗」の倶舎論を図像化した曼荼羅です。 釈迦三尊(釈迦・阿難・迦葉)を中心に、倶舎宗の祖師や仏弟子が囲み、左右に梵天・帝釈天、四隅には四天王が配されています。 描かれたのは平安時代ですが、奈良時代から東大寺に伝わる図像を元に描かれたものだそうです。
三宝絵詞 下巻[東京国立博物館]
平安時代の中頃にまとめられた仏教の説話集で、三宝とは「仏」「法」「僧」のことです。 地方官を歴任し漢詩をよくした源為憲が、冷泉天皇の皇女「尊子内親王」の為に編纂したもので、前期に公開される日本霊異記に載っている話も採用されています。
東寺の観智院に伝来し、ほぼ完全な状態で全3巻が現存する貴重なものです。
6/7~6/19
釈迦如来像(赤釈迦)[神護寺/京都]
神護寺に伝わる大型の仏画で、輪郭線が赤いことと、赤い衣を着ていることから「赤釈迦」の通称で呼ばれています。 平安時代末の院政期のもので、金白色の肌に截金が多用された衣と、とても優雅な仏画です。 いつもは5/1~5に開催される神護寺の虫干しで公開されますが、ここ数年はコロナの関係で中止になっていたので、こちらへのお出ましは嬉しいですね。
展覧会 概要
日程:2022/4/23~6/19(前期:4/23~5/22、後期:5/24~6/19)
時間:9:30~17:00(入館は30分前まで)4/29と5/7は19時まで延長
休館:毎月曜日(5/2は開館)
料金:一般¥1,800、大高生¥1,500、小中生¥800
奈良国立博物館 公式サイト