徳川美術館のこと
徳川美術館は、江戸時代の御三家筆頭だった尾張徳川家の文化財を後世に伝えるために、尾張徳川家の隠居所であった大曽根屋敷跡地に昭和10年(1935年)に開館しました。 敷地には、池泉回遊式庭園の「徳川園」や、尾張徳川家の蔵書を元にした「蓬左文庫」があり、大名文化を今に伝えています。
家康の形見分けである「駿府御分物」などの名品に、奥方が腰入れの際に持参されたお道具類や、近代のコレクションも加わり、国宝9件を含む10,000件ほどの文化財を所蔵しています。 ジャンルごとに分かれた「コレクション展」の他、年に5~6程度の特別展が開催されます。

時をかける名刀 展
徳川美術館と蓬左文庫が開館してから90周年にあたる今年は、1年を通して大規模な展覧会が続きます。 夏休みを含む3か月弱にわたる夏の特別展は「時をかける名刀」で、徳川美術館が所蔵する国宝刀剣が全て公開されるほか、三日月宗近や岡田切など他館が所蔵する国宝刀剣も公開されます。 大人気ゲームの刀剣乱舞に登場する名刀も多数公開されますので、JR東海の「推し旅」などタイアップ企画も多くあるようです。 前期(6/14~7/27)と後期(7/29~9/7)で大きく展示替えされますが、国宝に限っていえば7/29~8/11の期間に行けば全点観ることができます。 それでは後期に人が集中するのでは?と思いきや、前期には徳川美術館所蔵の重文「刀(本作長義)」と、その写しで足利市民文化財団が所有する重文「刀(山姥切国広)」が並べて公開されるので、これを目当てで混雑が予想されます。
徳川美術館90周年記念展覧会
4/12~6/8「国宝 初音の調度」展 国宝『婚礼調度(初音の調度)』全点公開 ※終了
6/14~9/7「時をかける名刀」展 国宝刀剣8振+他館の国宝刀剣3振
9/13~11/9「尾張徳川家 名品のすべて」展
11/15~12/7「国宝 源氏物語絵巻」展 国宝『源氏物語絵巻』全点公開
この展覧会で観られる国宝
第1章 武家と名刀
国宝『太刀 銘 三条(名物 三日月宗近)』東京国立博物館
この章では刀剣が2振だけ展示されるようです。 いずれも名刀揃いで、重文「刀(南泉一文字)」が通期、前期には重文「太刀 銘 国綱」が公開されます。 後期に公開される国宝はあの有名な三日月宗近で、宗近は一条天皇の刀を鍛えたという伝承のある山城国(京都)の刀工です。 北政所おねから徳川2代将軍秀忠に伝わった、とても優美な太刀です。

第2章 戦と刀剣
この章では、戦国・豊臣・家康の天下統一の3節で構成されています。 この時代は戦で功をあげたり味方に付いたりした褒美として刀剣が与えられたり、逆に臣従の礼として献上されたりで、名刀はあちらこちらと移ります。 所有者たちの移り変わりと歴史を照らすと面白そうですね。
1節 群雄割拠の時代
国宝『太刀 銘 長光(名物 遠江長光)』徳川美術館
この節は戦国時代がテーマで、公開される4振の刀剣の中で国宝はこの1件、なんと織田信長の愛刀だったという太刀です。 本能寺の変後に明智光秀が安土城から持ち去って家臣の津田重久に授けたもので、光秀が討たれた後に豊臣家に仕えた津田重久が遠江守に叙されたので「遠江長光」の名物号で呼ばばれています。
2節 豊臣家の栄光
国宝『太刀 銘 吉房(岡田切)』東京国立博物館
国宝『短刀 無銘正宗(名物 日向正宗)』三井記念美術館
信長亡き後、天下統一を果たした豊臣秀吉の元には数多くの名刀が集まりました。 刀剣の数も前後期あわせて10振と多く、本作長義と山姥切もこのコーナーで公開されます。 こちらで公開される国宝はゲストの2振で、織田信長から次男の信雄に伝わった華やかな刃紋の岡田切と、家康の従兄弟にあたる水野勝成が関ヶ原の戦いの時に大垣城攻めで手に入れた日向正宗が公開されます。

第3章 贈答品としての刀剣
1節 家康の遺産
国宝『太刀 銘 来孫太郎作 花押 正応五□辰八月十三日以下不明』徳川美術館
国宝『短刀 無銘 正宗(名物 庖丁正宗)』徳川美術館
家康が駿府で息を引き取ると、親族や家臣に遺品が形見として分け与えられて、それらは「駿府御分物」と呼ばれます。 尾張徳川家にも多くの駿府御分物が伝わり、その中から名刀4振が公開されます。 国宝2振は通期で、重要美術品に指定された2振の刀は前期と後期で展示替えされます。
2節 歴代将軍の贈り物
国宝『短刀 銘 吉光(名物 後藤藤四郎)』徳川美術館
国宝『太刀 銘 光忠』徳川美術館
国宝『太刀 銘 正恒』徳川美術館
江戸泰平の世になると、刀剣を戦によって手に入れることは無くなりますが、婚礼の引出物や元服など慶事で贈られたり、将軍が御成の時に土産として下賜したりで、将軍家や大名の間を行き来します。 この節で公開される国宝3振もそれぞれの背景があって面白いです。
第4章 尾張家と名刀
国宝『太刀 銘 国宗』徳川美術館
国宝『初音の調度』から「太刀 銘 国行」徳川美術館
最後の第4章では、尾張徳川家ゆかりの名刀を一挙大放出で、前後期あわせて11振すべてが国宝・重要文化財・重要美術品の指定を受けています。 国宝2振の内の国行の太刀は、3代将軍家光の長女の千代姫が尾張徳川家の2代目藩主になる光友に嫁いだ時の豪華絢爛な嫁入道具の一部です。
名古屋で刀剣めぐり
名古屋には刀剣好きならぜひ訪れたい施設があって、その内1軒では国宝刀剣が公開されています。 それぞれの館は公共交通機関で30~45分とアクセスはイマイチですが、遠方から遠征される方はぜひともプランに組み込んでください。
名古屋刀剣博物館
東建コーポレーションさんが栄にオープンした名古屋刀剣ワールド・名古屋刀剣博物館では、6/7~8/31まで「戦国武将ゆかりの刀剣~織田信長~」を開催していて、信長の弟の織田長益(有楽斎)が所持した国宝『短刀 銘 来国光(有楽来国光)』が公開されています。
熱田神宮
三種の神器の1つ「草薙剣」を祀っている熱田神宮は、源頼朝、織田信長、徳川家康など名だたる武将の尊崇を集め、数多くの刀剣が奉納されてきました。 境内には昔からある「宝物館」と、刀剣の展示のために2021年に開館した「草薙館」があり、どちらも約1ヶ月で展示替えがあります。 この時期は国宝『短刀 銘 来国俊』の公開はありませんが、草薙館では刀剣の作り方や見方などが詳しく解説されているので、刀剣に詳しくない方はまずここで勉強すると良いかもしれません。 6/27~7/29の宝物館は「武将と熱田」展なので、時をかける名刀展と親和性が高そうです。
展覧会 概要
日程:2025/6/14~9/7
休館:月曜日(7/21は開館し、7/22が休館)※お盆は無休で開館
時間:10:00~17:00(入館は30分前まで)
夜間:前期期間の金・土・お盆 ※完売
料金:一般¥1,600、高大生¥800、小中生¥500