日本、美のるつぼ-異文化交流の軌跡-展
2025年は関西に国宝が大集結することが話題で、大阪市立美術館は約130件、奈良国立博物館は約110件の国宝数に比べると京都国立博物館はやや少なめですが、テーマが異文化交流で万博に一番近しい展覧会です。 第1部「東アジアの日本の美術」は美術館博物館だけでなく関西の寺社からの出展が多そうで、第2部「世界と出会う、日本の美術」は桃山~江戸時代の南蛮趣味の作品や、ヨーロッパで作られた日本趣味の作品などが並ぶようです。 そして、ボストン美術館からお里帰りがあり、1つは日本にあれば国宝級といわれる「吉備大臣入唐絵巻」、もう1点は南宋時代の「帰去来辞書画巻」の2点も楽しみです。 海外からもう1件、深圳望野博物館の「李訓墓誌」は吉備真備筆とあって驚いたのですが、石碑か何かの拓本が写真パネルで展示されるようです。 吉備真備の書と、吉備真備の唐での活躍が描かれた絵巻物が並ぶというのは面白い企画ですね。

展覧会の章構成
プロローグ 万国博覧会と日本美術1 世界に見られた日本美術
プロローグ 万国博覧会と日本美術2 世界に見せたかった日本美術
第1部 東アジアの日本の美術1 往来がもたらす技と美
第1部 東アジアの日本の美術2 教えをもとめて
第1部 東アジアの日本の美術3 唐物-中国への憧れ
トピック 誤解 改造 MOTTAINAI
第2部 世界と出会う、日本の美術1 地球規模の荒波
第2部 世界と出会う、日本の美術2 グローバル時代のローカル製品
第2部 世界と出会う、日本の美術3 技術移植と知的好奇心
第2部 世界と出会う、日本の美術4 新・中国への憧れ
エピローグ 異文化を越えるのは、誰?
この展覧会で観られる国宝

絵画
風神雷神図屏風(俵屋宗達筆)[建仁寺/京都]通期
説明不要の大人気作品、琳派の祖といわれる俵屋宗達による風神雷神の屏風です。 尾形光琳や酒井抱一が模写していますが、やはり宗達のものが一番ダイナミックで愛嬌があっていいですね。 お向かいの三十三間堂には、宗達がモデルにしたのではないかという説のある国宝『風神雷神像』がありますので、時間のある方は見比べてください。
十二天像[京都国立博物館]展示替え
密教の儀式の時に掛けられた十二天の掛軸で、鎌倉時代に製作された華やかな仏画です。 現在でも12幅が揃っていますが、今回は前期に「梵天」が、後期には「閻魔天」が公開されます。
十二天像[西大寺/奈良]展示替え
奈良の西大寺に伝わるのは平安初期に描かれた十二天の仏画で、唐の影響が強く原色を多用していて、京博の作品と見比べるのも楽しいです。 こちらも12幅揃っている中から、前期に「火天」が、後期に「帝釈天」が公開されます。
山水屏風[京都国立博物館]展示替え
屏風というと貴人の邸宅を飾る調度品のイメージですが、密教儀式の重要アイテムでもあり、この山水屏風は東寺での灌頂の儀式で使われたものです。 日本で発展したやまと絵の技法で、中国の風景を描く「唐絵」という様式です。 前期には国宝原本が、後期は藤井良次という絵師が描いた附の模本が公開されます。
華厳宗祖師絵伝(華厳縁起)[高山寺/京都]展示替え
鳥獣戯画で有名な高山寺から、新羅の華厳宗の開祖である元暁と義湘の伝記が描かれた絵巻物で、高僧の伝記絵巻では最古級のようです。 彩色が淡くてファンタジー感のある絵に、詞書は明恵上人が書いたという伝説があります。 今回は第2巻が通期で公開され、期間の途中で巻替えがあるようです。
六道絵[聖衆来迎寺/滋賀]後期
人が輪廻で生まれ変わる六道を描いた仏画で、元は比叡山にあったものが焼き討ちを逃れて琵琶湖畔にある聖衆来迎寺に移されて現在に至ります。 5/20~6/15に公開されるのは、15幅のうちから「人道無常相図」の1幅ですが、今年の春~夏にかけて東京・大阪・奈良でも公開されます。
瓢鮎図(如拙筆)[妙心寺退蔵院/京都]5/27~6/15
雪舟が師と仰いだ相国寺の画僧「如拙」が絵を描いていて、上部に賛と呼ばれる文が書かれる詩画軸という形式です。 室町4代将軍の足利義持が「瓢箪で鯰を抑えとることができるか」という題を出して、それに対して僧たちが上部に答えを書きこんでいます。 5/27~6/15のみの公開ですが、4/26~5/18には大阪市立美術館で公開されます。

天橋立図(雪舟筆)[京都国立博物館]6/10~6/15
最も国宝に指定された数の多い絵画の作者「雪舟」の描いた天橋立の風景で、紙の継ぎ方などが雑なので下絵という説がある大型の作品です。 描かれた建物などから明応10年(1501年)~永正3年(1506年)の間と推測され、これは雪舟が80歳を超えた時期にあたるそうです。 6/10~15の6日間だけの公開でが、5/27~6/8は大阪市立美術館で公開されています。
工芸品
宝相華迦陵頻伽蒔絵冊子箱[仁和寺/京都]通期
空海が唐に留学した時に、空海自身や写経生らによって経典や教義を書き留めた30帖の冊子が「三十帖冊子」と呼ばれて国宝になっています。 今回、冊子は公開されませんが、醍醐天皇が三十帖冊子を護るようにと下賜された蒔絵箱が公開されます。 三十帖冊子と一緒に国宝に指定されているので、文化財のカテゴリは「書跡典籍」になっています。

熊野速玉大社 古神宝類[熊野速玉大社/和歌山]前期
熊野三山の1つ、熊野速玉大社に伝わる古神宝類で、足利義満が奉納したものを中心に、千を超える衣装や調度品などが国宝に指定されています。 今回は「籬菊蒔絵手箱・櫛箱」が前期(4/19~5/18)だけの公開ですが、こちらは数が多く各地の博物館に寄託されているので、比較的観られる機会は多く、奈良と大阪でも公開されます。
阿須賀神社伝来 古神宝類[京都国立博物館]通期
足利義満が熊野速玉大社に神宝類を奉納した時に、摂社「阿須賀神社」にも奉納していて、本宮と同じように装束や調度類がほぼ目録通りに現在まで残っているそうです。 今回は「松喰鶴蒔絵御衣箱」が通期で公開されます。 5/27~6/15には大阪市立美術館で「松椿蒔絵手箱」が公開されています。
考古資料
東大寺山古墳出土品[東京国立博物館]通期
奈良県天理市にある東大寺山古墳は、東大寺からはかなり離れていますが、東大寺の領地だったのだそうです。 東大寺山古墳からは武具や装身具、埴輪などが大量に出土していて、今回は刀剣に付ける 「家形環頭飾」が公開されます。
彫刻
五智如来坐像[安祥寺/京都]通期
以前は京博の本尊のようにいつでもお目にかかれましたが、2022~2025年初までは公開されていなかったので、久しぶりの再会です。 山科の安祥寺が創建された頃に多宝塔に納められた五智如来で、5躯が揃っている最古の作例だそうです。 おっとりどっしりしていて、仏像の手つき「印相」が全て異なるのも面白いです。
書跡典籍・古文書
入唐求法巡礼行記(兼胤筆)後期
最澄の弟子の円仁が遣唐使の一員として唐に滞在した時の日記や記録で、直筆はすでに失われていて、こちらは兼胤という僧が正応4年(1291年)に書写した最古の写本です。 後期だけの公開ですが、4帖のうち2帖が公開されます。
ポルトガル国印度副王信書[妙法院/京都]6/3~6/15
豊臣秀吉がイエズス会の宣教師と面会した時に、ポルトガル国インド副王「ドゥアルテ・デ・メネーゼス」から武具などの贈り物と共に贈られた書簡です。 羊皮紙が使われ、ポルトガル語で秀吉の事跡を称えたり宣教師への協力要請が書かれ、周辺は絵が描かれています。 6/3~6/15の2週間弱だけ公開されます。

展覧会 概要
日程:2025/4/19~6/15
時間:9:00~17:30(入館は30分前まで)
夜間:金曜日は20時まで延長(入館は30分前まで)
休館:月曜日(5/3と5/7は開館)
料金:一般¥2,000、大学生¥1,200、高校生¥700、中学生以下無料