今観られる「龍」の国宝
国宝『金銀鍍龍首水瓶』[東京国立博物館]
東京国立博物館の奥まった場所にあるので、ご存じない方もおられるでしょう「法隆寺宝物館」は、明治時代に法隆寺から皇室に献納された文化財の保存と展示を兼ねた施設で、金属製の国宝が何点か常時公開されています。 その中の1点、この水瓶は水を注ぐ口の部分が龍の頭で、取っ手を龍の体に見立てて鱗のような模様が入っています。 胴体部分にペガサスが彫られていたりと、この水瓶が作られた唐時代の中国のインターナショナル感には驚かされます。 いつも静かな法隆寺宝物館にひっそり佇んでいるので、たまに特別展への出展で平成館に出張して大勢の人だかりができていると、なぜか良かったね!という気持ちになってしまいます。
国宝『華原磬』[興福寺/奈良]
こちらは唐の高宗皇帝から興福寺に贈られたという装飾性の高い楽器で、小型の銅鑼のような磬(けい)を2頭の龍が支えて獅子の背に立っています。 法隆寺国宝館の中央に安置される大きな千手観音像の正面に置かれていると思います。
国宝『天燈鬼・竜燈鬼立像(康弁作)』[興福寺/奈良]
こちらも興福寺の国宝館にいつもいる燈籠を捧げる鬼達です。 龍燈鬼の方は体に龍を巻き付けて頭の上に燈籠を載せていて、上目遣いで自分の頭上を見上げる様子が何ともかわいらしい。 天燈鬼はよいしょっと燈籠を肩に担いでいて、こちらは小型ながら仁王さんのような筋骨隆々の迫力ある姿です。 運慶の三男の康弁が作ったものです。
国宝『鼉太鼓(だだいこ)』[春日大社/奈良]
鼉太鼓は雅楽や舞楽で使われる大型の太鼓で、国宝に指定されたのは鎌倉時代に作られた春日大社の一対のみです。 写真は春日大社国宝殿の1階に置かれていて外からも観ることができる国宝のレプリカで、こちらは12月の春日若宮おん祭で現役で使われています。 本物の国宝は、入館料を支払って2階にあがると観ることができて、彩色などはもうほとんど残っていませんが、逆に慶派が携わったといわれる龍や鳳凰の彫刻の美しさが一段と目を引きます。
国宝『奈良県藤ノ木古墳 出土品』[橿原考古学研究所]
橿原神宮に隣接する文化エリアにある橿原考古学研究所附属博物館では、藤ノ木古墳から出土した金属製品や装飾玉類が展示されています。 数多くの出土品の中でも代表的なのは透かし彫りが見事な馬具類で、鞍の前輪には龍や鳳凰や象など空想上や実在の生き物がたくさん登場しますので、ぜひ龍を探してみてください。
国宝『キトラ古墳 壁画』1/20~2/18[奈良]
こちらはお正月ではありませんが、1月下旬から約1ヶ月の公開期間に今年は干支にちなんでか「青龍」の部分が公開されます。 キトラ古墳の東西南北の壁にはそれぞれ中国で四方を守護する四神が描かれていて、青龍が描かれた東壁には干支の「辰」も描かれていたようですが、これはX線で判明したもので肉眼では見えないようです。 青龍の他に、天井の「天文図」も公開されます。
国宝『琉球国王尚家関係資料』1/7~2/28[那覇市歴史博物館]
辰年をテーマにした展覧会にも書いていますが、琉球王家に伝わった衣装や調度から、龍を意匠とした品々が公開されます。 中国の影響を多く受けた琉球では、龍は王を象徴するモチーフとして、王家に数多く伝わったようです。
「紅色地龍宝珠瑞雲文様紅型平絹袷衣裳」は1月のみですが、「黒漆雲龍螺鈿東道盆」「黒漆雲龍螺鈿盆」「向承訓書」「尚育王書五言対句」は1~2月に公開されます。
十二神将像[複数あり]
薬師如来の眷属である十二神将は日本で干支に結び付き、頭の上に干支の人形を乗せた造形もあります。 龍などはかっこいいですが、ウサギや羊は可愛すぎいてニヤリとしてしまいます。
国宝の十二神将は、
十二神将立像(木像)[広隆寺/京都]
十二神将立像(木像)[興福寺東金堂/奈良]
十二神将立像(板彫)[興福寺/奈良]
十二神将立像(塑造)[新薬師寺/奈良]
「龍」「竜」の付く寺院
大徳寺の塔頭「龍光院」は曜変天目など多くの国宝を所有していますが拝観謝絶で特別公開などもありません。 東福寺の塔頭「竜吟庵」は3月の数日と紅葉シーズンの特別公開のみ、高野山の塔頭「龍光院」は春夏は宿坊として利用できますが通常の拝観は不可のため、こちらには載せませんでした。
瑞龍寺[富山]
国宝『山門』から入り、正面に見える『仏殿』とその奥にある『法堂』という3つの国宝建造物が並んでいて、それを回廊がぐるりと結び、その途中にも庫裏などが残っていて、全盛時の禅宗の七堂伽藍を窺い知れる遺構です。 見どころが多いのでじっくり拝観した後は、法堂でお抹茶を頂くこともできます。
門前には小さな茶屋があって、寺名にちなんだ龍をかたどった鯛焼き?!と思ったら、こちらは麒麟なのだそうです。 同じ空想上の生き物ですし、何より美味しいので麒麟焼きもぜひ召し上がってください。
龍谷山 本願寺(西本願寺)[京都]
浄土真宗本願寺派の総本山「西本願寺」の山号は「龍谷山」でで、系列施設の龍谷大学や龍谷ミュージアムなんかに名前が使われています。
京都駅にも近くて拝観料が無料なので、新幹線までちょっと時間があるなんて時にぴったりで、2棟続きでどちらも国宝の『御影堂』と『阿弥陀堂』に参拝してお堂の中や縁で静かな時間を過ごすのが実に京都らしいです。 1/20~3/10には京の冬の旅の特別拝観で通常非公開の『飛雲閣』も公開されますし、修理が終わって極彩色がよみがえった『唐門』はちょっとわかりづらい奥にあるので、お見逃しのないようになさってください。
お向かいにある龍谷ミュージアムでは、1/9~「眷属-ほとけにしたがう仲間たちー」という展覧会が始まるようです。
海竜王寺[奈良]
平城宮跡の東にある海竜王寺は、藤原不比等の邸宅だった場所を娘の光明皇后が譲り受けて皇后宮が置かれたこともあり、平城宮内の道場として唐から戻った玄昉が住持を務めたこともあるという歴史のあるお寺。
こちらの国宝は『五重小塔』で、名前の通り屋内に置かれた小型の五重塔ですが、ちゃんと「建造物」として国宝に指定されています。 写真は西金堂の入り口から撮影したもので、細かいところまで見事な細工がされています。
歩いて数分の場所には法華寺もありますので、混んでいる奈良公園エリアを避けたい方にはぴったりだと思います。
「龍」「辰」をテーマにした展覧会
東京国立博物館「博物館に初もうで」1/2~1/28[東京]
いつ行っても国宝だらけの東博は、毎年お正月に「博物館に初もうで」というイベントが開かれ、干支や吉祥模様の展示品で埋め尽くされます。 国宝室は恒例の長谷川等伯筆『松林図屏風』で、隣の部屋ではこちらもお馴染みの『古今和歌集(元永本)』が並びます。 1/16~は「本阿弥光悦の大宇宙」、1/23~は「中尊寺金色堂」という特別展が始まり、それぞれ東京ではなかなか会えない国宝を観ることができます。
静嘉堂文庫美術館「ハッピー龍イヤー!」1/2~2/3[東京]
東京駅前に移転してアクセス抜群になった静嘉堂文庫美術館では「ハッピー龍イヤー!」というダジャレがいい感じの展覧会が始まります。 移転後はかなり多くの期間で『曜変天目(稲葉天目)』が公開されていて、今回も引き続き頑張っているようです。
京都国立博物館「辰づくし―干支を愛でる―」1/2~2/12[京都]
京博は実は通常展の方が面白い気がしていて、今回も干支をテーマにした展示の他に「平安時代人の祈り―経塚と経筒」という魅力的な展示があり、「光る君へ」に合わせたのか藤原道長が埋納した『経筒』などが公開されます。 「織物の美と技法」では『阿須賀神社伝来 古神宝類』『熊野速玉大社 古神宝類』から装束や袋が公開されるようです。
那覇市歴史博物館「王家の象徴・龍の衣裳/龍の漆器と書」1/7~[沖縄]
那覇の街中にある那覇市歴史博物館では、国宝『琉球国王尚家関係資料』から月替わりでいつも何点かが公開されています。 中国で皇帝の象徴だった龍は琉球王朝でも王の象徴とされたようで、1/7~1/31は「龍の衣裳」、1/7~2/28は「龍の漆器と書」というテーマのラインナップになるようです。